提案の背景
館林市(群馬県)は、歴史と自然に彩られた魅力的なまちです。
かつて城下町として栄えた館林城跡や、約100種類・1万株ものツツジが咲き誇るつつじが岡公園は有名で、4月中旬から5月上旬の「館林つつじまつり」には毎年多くの観光客が訪れます。

また、江戸時代から伝わる民話「分福茶釜(ぶんぶく茶釜)」の舞台となった茂林寺には、参道で21体の狸(たぬき)像が出迎えてくれ、境内には東武鉄道が寄贈した巨大な狸像も鎮座しています。
こうした史跡や伝統文化が身近に息づく館林ですが、一方で館林うどんと呼ばれるコシの強い名物うどんも有名で、実は水沢・桐生と並ぶ「群馬三大うどん」の一つとして知られています。
さらに夏の暑さも全国的に知られており、館林市は「日本一暑いまち」という看板を掲げ、2007年には最高気温40.3℃を記録(観測史上10番目の高さ)するなど猛暑のニュースで名前が挙がる地域です。
これら豊富な観光資源や特色を、より多くの人に知ってもらうにはどうしたらいいでしょうか?
近年、自治体もデジタルシフトの波に乗りつつあり、その一つの手段としてVTuber(バーチャルユーチューバー)の活用が注目されています。
VTuberとは、2D・3Dのアバターキャラクターを通じて動画投稿や生配信を行う配信者のことで、リアルの代わりに仮想のキャラクターが情報発信する新しいスタイルです。
もともと若年層を中心に人気が高まっていたVTuberですが、最近では企業だけでなく国や自治体でもPRメディアとして起用が広がっており、地域の魅力発信に活用する動きが見られます。
館林市でも、このデジタル技術を活用した新たなPR戦略として「市公式VTuber」の導入を検討してみてはどうか――
そんな期待が高まっています。
VTuberのメリット
市役所がVTuberを導入することで、具体的にどんなメリットがあるのでしょうか?
以下に主な利点を挙げてみます。
- 観光PRで認知度向上
館林市の豊かな観光資源やイベント情報を、VTuberが動画やSNS配信で発信すれば、県内外へ魅力をアピールできます。
例えば東京都では観光大使にVTuberを起用し、埼玉県でもVTuber「春日部つくし」が観光・物産を紹介する動画を配信しています。
館林市でもVTuberが「つつじまつり」や「分福茶釜伝説」などを紹介すれば、他地域の人々にも興味を持ってもらえるでしょう。
参考:なぜ企業や自治体が「VTuber」を起用するのか? - 親しみやすい広報
硬くなりがちな市役所の情報も、かわいいキャラクターが伝えることで親しみやすさが格段にアップします。
VTuberならではの明るい声と表情で、防災情報やイベント案内なども市民にフレンドリーに届けられます。
実際、茨城県の公認VTuber「茨ひより」は子どもからお年寄りまで受け入れられるよう工夫しつつ、県の魅力発信に活躍しているそうです。
館林市でも、市政ニュースや観光情報をVTuberが楽しく紹介すれば、「堅苦しい広報紙は読まないけど動画なら見る」という層にもリーチできるでしょう。
参考:脱ゆるキャラ?自治体の地域活性化VTuber取り組み事例 - 若者とのコミュニケーション活性化
VTuberは10~20代に特に人気が高く、YouTubeやTikTokなどを日常的に使う若年層にリーチする絶好の手段です。
VTuberが市公式SNSで発信すれば、若者たちがコメントしたりリアクションしたりと双方向のコミュニケーションが生まれます。
「VTuberを通じて地元の高校生とコラボ配信」なんて企画も面白いかもしれません。
市の情報発信が一方通行でなくなり、若い世代からの意見やアイデアを引き出すきっかけにもなります。 - 企業・自治体コラボの可能性
VTuberはキャラクターとして他の企業や自治体とのコラボレーション展開がしやすいのも魅力です。
例えば徳島県公認VTuber「蒼藍アオ」は地元企業と
オンラインバスツアーを企画するなど、新しいタイアップを実現しています。
館林市のVTuberが誕生すれば、群馬県内の他市町村や、地元企業とのコラボイベントも考えられます。他地域のVTuberと「コラボ配信でお互いの街を紹介し合う」といった取り組みで、双方のファンが交流し合う場を作ることも可能でしょう。 - 地域産業との連携
VTuberを通じて地場産業のPRも期待できます。
例えば、岩手県八幡平市ではVTuberと地元企業が共同開発したコラボ商品を道の駅で販売し、特産品のPRと観光誘致につなげる試みが行われています。
参考:VTuber出演の漫画や生配信で岩手県八幡平市の「まちの魅力」を発信!
館林市でも、名物の館林うどんや農産品をVTuberが動画で紹介したり、地元企業の商品をVTuberキャラクターとコラボ開発して発信したりと、産業振興に寄与するコンテンツが作れます。
仮に館林市のVTuberキャラが「うどん好き」「暑さに負けない元気娘」などの設定であれば、館林うどんや暑さ対策グッズの宣伝も物語に絡めて自然にアピールできるでしょう。
このように、市公式VTuberには観光振興から情報発信力アップ、交流促進まで幅広いメリットが期待できます。
課題と対策
メリットが多いVTuber導入ですが、実現にあたってはいくつかの課題も考えられます。
館林市がVTuberを運用する上での課題と、その対策のアイデアを見てみましょう。
- 費用と運用体制
VTuberを始めるにはキャラクターデザインやモデリング、機材や配信環境など初期コストがかかります。
一般的な相場ではキャラデザイン制作に約12万円~、Live2Dモデル制作に約30万円~、VTuberとして動かせる状態にするプランで40万円~程度が必要とされています。
参考:PR大使に自前「VTuber」を検討! 下がる導入ハードルと、SNS時代に期待膨らむ起用効果
この他にも声優・演者への依頼費や動画編集費など運用コストも発生します。
対策としては、観光予算や広報予算の一部を充てるほか、企業版ふるさと納税やクラウドファンディングで資金を募る方法も考えられます。
「市民参加型VTuber基金」を設けて支援者を募れば、資金確保と同時に市民の関心も高められるでしょう。
また、市役所内に詳しい職員がいれば内製化でコスト削減も可能ですが、難しい場合はVTuber支援実績のある企業(例えばプロジェクトを手掛ける民間会社)と連携し、効率的な運用体制を構築すると安心です。 - 議会・市民の理解
新しい試みには必ず「本当に効果があるの?」「税金の無駄では?」といった声が出るものです。
市議会や市民にVTuber導入の意義を理解してもらうには、まず他自治体の成功事例データを示すことが有効でしょう。
例えば茨城県の茨ひよりさんはデビュー動画が30万回再生され、魅力度ランキング浮上に貢献したと言われていますし、埼玉県ではVTuber観光大使が就任後に発信した動画で多くの反響を得ています。
こうした事例や数値を紹介し、「館林でも観光客○%増加を目指せる」など具体的な目標を示せば、理解が得られやすくなります。
また事前に市民アンケートを行い、「VTuberに興味がある若者が多い」という結果を共有するのも効果的です。
市民参加のデザイン投票やキャラクター公募を行えば、自分たちで育てるVTuberとして愛着が湧き、応援ムードも高まるでしょう。 - 継続性とブランディング
VTuberは作って終わりではなく、継続的に活動させて初めて効果が出ます。
「一発屋」で終わらせないために、運用の継続性とキャラクターのブランディング戦略が重要です。
キャラクター設定は館林の特徴をしっかり織り込み、例えば「館林城のお姫様が現代に蘇った」「分福茶釜の化身である狸の妖精」などストーリー性を持たせると長く愛されるでしょう。
活動内容も最初に指針を決めておくことが大切です。
茨城県のVTuberのように「行政運営なので過度にマニアックな内容は避ける」「老若男女に親しまれる企画にする」「地域の魅力発信が軸」という3原則を掲げておけば、ブレずに運営できます。
万一、中の人(声優)が交代する場合も設定や声質を引き継いでキャラクターとしての人格を守ることで、ファンの支持を維持できます。
定期配信のスケジュールを決めたり、1年分の企画カレンダー(例:春は花祭り紹介、夏は猛暑対策企画、秋はうどん新メニュー紹介 etc.)を用意しておけば、運用が計画的かつ安定します。 - コンテンツ制作の課題
動画の企画・編集や配信ネタの継続確保も課題です。
毎回同じような内容では飽きられてしまうため、バラエティ豊かなコンテンツ作りが求められます。
対策としては、市内の話題を幅広く拾い上げるために部署横断の「VTuber企画会議」を設けたり、市民からネタ募集をする方法があります。
「館林VTuberにやってほしい企画」を公募すれば、市民参加型で盛り上がりネタ切れ防止にもなります。
また、プロの力を借りるのも一案です。
地元のクリエイターや映像制作会社と協力して質の高い動画を作ったり、人気VTuberとのコラボ配信で刺激を与えるなど、外部リソースもうまく活用しましょう。
幸いVTuberの導入ハードルは下がってきており、専門サービスも増えています。
館林市の魅力という「コンテンツの宝庫」を活かし、視聴者が「次も観たい!」と思う楽しい配信を続けていきたいですね。
今後の展望
館林市公式VTuberが誕生し運用が軌道に乗れば、さらなる面白い展開が期待できます。
その未来の展望をいくつか描いてみましょう。
まず、VTuberを活用したイベント連携です。
例えば毎年開催のつつじまつりでは、VTuberが会場リポーターとして登場し、会場の様子をリアルタイムで配信したり、来場者と一緒に記念写真(もちろん仮想ですが)を撮るサービスを提供することができるでしょう。
また、猛暑で有名な館林ならではの企画として、夏にVTuberがオンライン上で「館林耐久!猛暑チャレンジ配信」と称して館林の暑さ体験をユーモラスに中継しつつ、熱中症予防を啓発するコンテンツを配信するのもユニークでしょう。
イベント当日に限らず、オフラインとオンラインを融合させたPR施策によって、現地に来られない遠方のファンにも館林を楽しんでもらえます。
次に、他自治体や企業とのコラボレーションの広がりです。
館林VTuberが話題になれば、近隣自治体のVTuberやご当地キャラとのクロスオーバー企画も可能になります。
例えばお隣の栃木県や埼玉県のキャラクターと合同でライブ配信を行い、お互いの地域を紹介し合う「北関東VTuberサミット」を開催したり、群馬県全域の魅力を発信するため県公式キャラクターのぐんまちゃん(※着ぐるみキャラかもですが)と異色の対談をしたり、といったコラボが考えられます。
企業に対しても館林VTuberは魅力的なコラボ相手になりえます。
例えば地元企業とタイアップしてVTuberが商品開発に挑戦し、その様子を動画シリーズで配信する、あるいは鉄道会社(東武鉄道など)と組んで館林駅発の観光列車にVTuberがアナウンスで登場する――
など産官連携の新たな試みが次々と実現できるでしょう。
さらに、デジタル技術を活用した新たな地域活性化の可能性も広がります。
VTuberは一つの入口であり、将来的にはメタバース空間での街づくりやAR観光ガイドなどにも発展しうるでしょう。
例えば館林市の名所をバーチャル空間に再現し、VTuberが案内する「バーチャル館林ツアー」を開催すれば、自宅にいながら館林観光が体験できます。
越前市(福井県)ではデジタルエンターテイメントを活用した地域PRに取り組んでおり、市オリジナルVTuberの活動やメタバースライブイベントを開催しています。
館林市も将来、デジタル技術を駆使したエンタメフェスやオンライン交流イベントを企画すれば、「デジタル先進都市館林」として新たなファン層を獲得できるかもしれませんね。
最後に、館林の伝統文化や地域の特徴とVTuberの融合です。
館林には分福茶釜や城下町の歴史といった豊かなストーリーがあります。
VTuberがこれらを現代風にアレンジして発信することで、若い世代にも郷土の物語を伝えることができます。
例えばVTuberが分福茶釜の伝説を紙芝居風に語る動画シリーズを作ったり、狸のキャラクター(茂林寺の狸たち)とコラボしてアニメ風ショートストーリーを配信したりすれば、「あの有名な狸の話は館林が舞台だったんだ!」と全国の人に印象付けるチャンスです。
また、「日本一暑いまち」の称号もポジティブに活かしましょう。
VTuberが夏に館林名物の激辛グルメや涼を呼ぶスポットを紹介する企画を行えば、猛暑も立派な観光コンテンツになります。
伝統×VTuber、猛暑×VTuberといった異色コラボで生まれるコンテンツは、きっと話題性抜群です。
親しみやすいVTuberが館林市の魅力を発信する姿は、市民にとっても誇らしく、楽しいものになるでしょう。
歴史ある城下町にデジタルの新風が吹き込み、館林市がより元気で魅力的なまちとして県内外に知られる日も遠くありません。
「ようこそ館林へ!私たちのVTuberがお出迎えします!」
──そんな未来を目指して、館林市役所がVTuber導入に前向きになるよう、ぜひ提案したいですね。
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