提案の背景 – 桐生の魅力とデジタルシフト
群馬県桐生市といえば、絹織物の産地として古くから栄え、「西の西陣、東の桐生」と称されるほど織物産業で名を馳せた街です。
現在でも桐生織の伝統は息づき、高級絹織物の産地として知られています。また毎年8月に開催される桐生八木節まつりは350年以上の歴史を持ち、近年は50万人以上もの人出を記録する両毛地域最大の夏祭りです。

ノコギリの歯のような独特の形状を持つノコギリ屋根の織物工場群も市内に点在し、その数は200棟以上で日本一とも言われ、産業遺産かつ観光資源として注目を集めています。
桐生天満宮を中心とした本町周辺には江戸から昭和期の蔵や町家が約400棟も残り、街全体が歴史と文化を感じさせる「東の小京都」の風情があります。
こうした豊かな観光資源や伝統文化を持つ桐生市ですが、近年はデジタル技術を活用した情報発信にも力を入れ始めています。
実は2019年にはお隣の栃木県足利市と連携し、日本遺産を題材にした短編アニメ「ヒトトキ桐生足利」を制作しましたが、その中でVTuber(バーチャルユーチューバー)を声優として起用する試みも行われました。
自治体がVTuberを活用したアニメを制作するのは全国初であり、桐生市はすでにデジタル×地域PRの先進的な一歩を踏み出していたのです。
このような流れの中で、「桐生市役所がVTuberを導入するかも?」という話題が出てくれば、市民にとっても興味深いニュースとなることでしょう。
伝統ある桐生の魅力を発信する新たな手段として、VTuberにはどんな可能性があるのでしょうか。
VTuberのメリット – 桐生PRに期待できること
VTuberとは、2Dや3DCGで作られたキャラクターを通じて動画配信や交流を行うバーチャル存在です。
近年、多くの企業や自治体がプロモーションにVTuberを活用し始めており、その市場規模は拡大の一途をたどっています。
桐生市がVTuberを導入した場合、具体的にどのようなメリットが考えられるでしょうか。
- 観光資源のPR・認知度向上
VTuberを通じて桐生の魅力を発信すれば、動画共有サイトやSNSで県内外の幅広い層にリーチできます。
例えば東京都は2023年に観光大使にVTuberを起用するなど、他地域でも観光PRにVTuberが活躍しています。
桐生でも名所やお祭りをVTuberが紹介すれば、「行ってみたい!」と感じる人が増え、観光客誘致につながるでしょう。 - 親しみやすい広報で市民に情報発信
行政からのお知らせや堅いイメージの情報も、VTuberが伝えることでぐっと親しみやすくなります。
実際、自治体初の公式VTuberとなった茨城県の「茨ひより」は県のネット放送でアナウンサー役を務め、登場後わずか9か月でチャンネル登録者数が3倍以上に増えた例があります。
桐生市でもVTuberが広報に加われば、市政ニュースや防災情報なども市民に届きやすくなりそうです。 - 若年層や市民とのコミュニケーション活性化
いまや子どもたちの「なりたい職業」上位にYouTuberが入る時代。
VTuberは若者にとって身近な存在であり、コメントや配信を通じて双方向のコミュニケーションも可能です。
桐生のVTuberが市民からの質問に答える配信をしたり、学校行事とコラボしたりすれば、若い世代との交流が深まり地域への愛着も育まれるでしょう。
参考:「Vtuberが地域活性化をする⁉」に潜む問題|地域活性化にVtuberは必要ですか? - 企業・他自治体とのコラボ拡大
VTuberという「キャラクター」はコラボレーション展開のしやすさも魅力です。
八王子市では学生主体でご当地ラーメンを題材にした美少女VTuber「玉メンマ」を企画し、地元企業とタイアップしたグッズやオリジナルカップ麺を販売するといった取組みを行っています。
その結果、地域の経済効果や知名度向上にも一定の成果を上げています。
桐生市のVTuberも、例えば地元企業の商品を紹介したり、他地域のVTuberと合同イベントを開催したりと、様々なコラボが期待できます。
こうした交流によって桐生の名前が全国に広まるチャンスにもなるでしょう。 - 地域産業との連携・伝統の発信
桐生織をはじめとする地場産業とVTuberがコラボすれば、伝統とデジタルの融合で新たな魅力を創出できます。
VTuberのキャラクターデザインに桐生織の美しい織柄や染色を取り入れたり、配信の中で織物の製作現場をリポートしたりすれば、若い世代にも伝統産業のすごさが伝わるはずです。
実際、志摩スペイン村(テーマパーク)ではVTuber「周央サンゴ」を期間限定アンバサダーに起用し、コラボイベント初日の来場者数が前年同日比で2倍以上(約7,000人)に増加した例もあります。
桐生でも伝統産業×VTuberの取り組み次第で、新たなファン層を開拓し地域産業の活性化につなげることができるでしょう。
課題と対策 – 実現へのハードルは?
魅力いっぱいのVTuber活用ですが、実際に桐生市が導入するには乗り越えるべき課題もあります。
ここでは考えられる課題と、その対策について見てみましょう。
- 予算確保と効果的な運用計画
VTuberを一から制作・運用するにはそれなりの費用がかかります。
キャラクターデザインやモデリング、声優・中の人の確保、機材や配信環境整備など、初期投資とランニングコストの捻出が課題です。
対策としては、まず 費用対効果を示して予算確保 に努めることが重要でしょう。
幸い他地域には成功事例があり、例えば茨城県のVTuber茨ひよりは広告換算で約2億4千万円ものPR効果を上げたとされています。
こうした具体的な数字を提示すれば、「桐生でも投資する価値あり!」と議会や財政担当者の理解も得やすくなるはずです。
また段階的な導入も検討できます。
最初は既存VTuberとのタイアップ企画など低コストな方法で効果を測定し、徐々に本格導入へ移行するプランを描けば、無理なく始められるでしょう。 - 議会・市民の理解と支持
新しい試みには賛否がつきものです。
「VTuberなんて本当に必要?税金の無駄遣いでは?」といった声が出る可能性もあります。
この点、行政側からはVTuber導入の目的や期待効果を丁寧に説明し、理解を得る努力が不可欠です。
かつて各地で乱立したゆるキャラが必ずしも地域活性化に直結しなかった反省も踏まえ、VTuberを導入する意義と目標を明確化することが大切です。
対策としては、事前に市民アンケートやワークショップを開催して意見を募り、市民参加型でVTuberキャラクターを企画するのも良いでしょう。
みんなでキャラクターの設定や名前を考えれば愛着もわき、「自分たちのVTuber」として応援してもらいやすくなります。 - VTuber運用の継続性とキャラクターのブランディング
一度デビューさせたVTuberを長く活躍させていくには、継続的な運用体制とキャラクターのブランディング戦略が欠かせません。
中の人(声優・演者)の交代や制作会社との契約更新など、長期的な視点で計画を立てる必要があります。
キャラクターの世界観や設定を大切に育ててブレない発信を心がけ、グッズ展開やイベント出演などで着実に知名度を上げていきましょう。
幸いVTuberは着ぐるみのゆるキャラと違い、演者が変わってもキャラを引き継げる柔軟性があります。
万一担当者が替わっても設定と声質を引き継げばファンの支持を維持できます。
重要なのは、市の公式キャラクターとして一貫したブランドイメージを築くことです。
桐生市の伝統や魅力を体現するようなストーリーや口癖、衣装(季節ごとに桐生織の新作を着るなど)を工夫し、市民に長く愛される存在を目指しましょう。 - コンテンツ制作の課題と解決策
VTuberに何をさせるか、中身が伴わなければ注目は続きません。
定期的に魅力あるコンテンツを作り出すには、ネタ切れ防止策や制作リソースの確保が課題です。
市のPR動画や配信ネタとしては、観光名所巡り、イベント体験レポート、地元グルメ紹介、昔話や伝説の紹介など尽きないように思えますが、実際に映像映えする企画に仕立てるには専門スキルも要ります。
対策としては、地元の高校生や大学生、クリエイターと連携して企画会議を開いたり、動画編集が得意な職員を育成したりすることが考えられます。
また近年はVTuber用のアバター制作ツールや配信プラットフォームが充実し、個人でも比較的簡単にVTuber配信ができるようになっています。
社内の人間(職員)が顔出しせずに専門知識を発信できる強みも指摘されており、桐生市役所内で「副音声担当」のように職員がVTuberの声で出演する形も面白いかもしれません。
外部委託だけに頼らず、市役所内に小さな制作チームを作ってノウハウを蓄積することで、安定的にコンテンツを供給できる体制づくりを目指すことが必要不可欠です。
今後の展望 – 広がる可能性と桐生の未来
課題を乗り越えて桐生市公式VTuberが誕生すれば、一体どんな未来が待っているでしょうか。
市のPR施策やイベントがデジタルによってさらに充実し、想像以上の盛り上がりを見せるかもしれません。
まず考えられるのは、VTuberを活用したイベント展開です。
例えば桐生八木節まつりの会場で、事前収録したVTuberによる祭りの見どころ紹介映像を流したり、VTuberがスクリーン越しに観客と掛け合いしながら踊りの輪に加わったりすれば、伝統ある祭りに新鮮な驚きをプラスできそうです。
オンライン上でも、VTuberが桐生市の観光スポットを巡るライブ配信イベントを開催すれば、遠方にいるファンも一緒に街歩きを体験できます。
実際に伊豆地域では有名VTuberとコラボした観光ツアーが企画され、限定ボイス付きで名所を巡るラッピング電車やVTuberグッズが登場して好評を博しました。
桐生市でもVTuberを絡めたユニークなイベントを打ち出すことで、従来の枠にとらわれない集客や盛り上げ施策が可能になるでしょう。
また、他自治体や企業とのコラボレーションも一層広がるでしょう。
仮に桐生市のVTuberが誕生すれば、群馬県内の他市町村や近隣の足利市・前橋市などと合同で配信企画を行い、お互いの観光名所を紹介し合うなんてことも考えられます。
企業とのタイアップでは、桐生発のVTuberがお土産品や地場産品のPR大使に起用され、新商品の発表会に“デジタル出演”するケースもあるかもしれません。
VTuberはインターネット上の存在なので、物理的な距離を超えてコラボできる強みがあります。
これにより桐生市はデジタル時代の交流拠点として、様々な地域・企業と繋がり合うハブ的存在になれる可能性もあります。
さらに夢が膨らむのは、デジタル技術を通じた新たな地域活性化です。
VTuberは単に動画に出るキャラクターに留まらず、将来的にはVR(仮想現実)やAR(拡張現実)と結びついて、桐生の街を舞台にした仮想空間イベントを開催することも考えられます。
例えば、自宅にいながらVRゴーグルを通して桐生新町のノコギリ屋根の街並みをVTuberが案内してくれるバーチャルツアーや、スマホのARアプリをかざすと桐生天満宮にVTuberが現れて史跡の由来を語ってくれるコンテンツなどが実現すれば、新しい形の観光体験として話題になるでしょう。
デジタル空間上に桐生市の分身を作り出し、「もうひとつの桐生」を創造するような取り組みも面白そうです。
そして何より魅力的なのが、伝統文化・職人技とVTuberの融合です。
桐生には長い歴史に育まれた伝統芸能や技術が数多くありますが、VTuberはそれらを現代風に発信する絶好の案内役になれます。
例えば桐生織の織元をVTuberが訪ねて対談し、機織りの音や職人さんの技を臨場感たっぷりに伝える動画シリーズを作れば、若い世代にも「織物ってかっこいい!」と感じてもらえるかもしれません。
八木節音頭をVTuberが踊ってみた動画や、桐生新町の古い町並みを背景にVTuberが昔話を語る配信なども、伝統とデジタルの掛け合わせとして注目を集めそうです。
デジタル技術は一見無機質にも思えますが、使い方次第で古き良きものの価値を再発見させる力があります。
VTuberという新しい媒体を通じて桐生の伝統にスポットライトを当てることで、古くからの地元の方にも「こんな形で桐生が紹介されるとは」と新鮮な誇りを感じてもらえるのではないでしょうか。
桐生市役所がVTuberを導入する可能性について、その背景からメリット、課題、そして未来の展望まで考えてみました。
デジタル時代ならではの挑戦ですが、桐生の持つポテンシャルと組み合わせればきっと面白い化学反応が起きるはずです。
伝統×デジタルの融合で、桐生市がさらに県内外に輝きを放つ日が楽しみですね。
市民に親しまれるVTuberが誕生すれば、「いいね、桐生!」の輪がネット上にも広がっていくことでしょう。
今後の桐生市の取り組みに期待が高まります。

桐生八木節まつりの様子。
夜空に揺れる提灯と勇ましいやぐらを中心に多くの人で賑わう桐生市最大の夏祭りです。
地域の誇る祭りをVTuberが紹介すれば、画面越しにも熱気が伝わり観光客増加に一役買ってくれそうですね。
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