提案の背景

近年、行政もデジタルシフトが進み、SNSや動画配信を活用した広報が当たり前になりつつあります。
バーチャルYouTuber(VTuber)という言葉も広く知られるようになり、企業だけでなく自治体でもPRにVTuberを起用する例が増えてきました。
例えば東京都は2023年2月に選出した16名の観光大使のうち3名にVTuber(ホロライブ所属)を任命し、埼玉県でも2021年にVTuberの春日部つくしさんがバーチャル観光大使に就任しています。

自治体初の公式VTuberとなった茨城県の茨ひよりさんは、デビュー後わずか9か月でYouTube登録者が3倍以上に増え、動画総再生数100万回を突破するなど大きな成果を上げ、広告換算額にして約2億4千万円の効果があったと報告されています。

このようにVTuberは自治体PRの新たな戦力として注目を集めているのです。
では、なぜ高崎市へVTuber導入を提案する必要があるのでしょうか。
その背景には、高崎市のこれまでの積極的なシティプロモーションの取り組みがあります。
実は高崎市は2017年に昔ながらの飲食店を紹介する「絶メシリスト」、2018年に市内のユニークなスポットを発信する「#インスタグンマー高崎」といったプロジェクトを行い、市の魅力発信に努めてきました。
さらに2019年には素人職員を起用した農業PR動画「農Tube高崎」を開始し、SNS上で大きな話題を呼んでいます。
このようにデジタル媒体で市の情報発信を強化してきた高崎市に対し、次なる一手としてVTuberの運用を提案したいと考えております。
若い世代へのアプローチや、市外・県外へ高崎の魅力を届ける手段として、バーチャルなキャラクターの力を借りることに期待することができます。
VTuberのメリット
茨城県公認VTuberの茨ひよりさんは県の魅力発信で大活躍し、デビュー動画は30万回以上再生される人気ぶりです。
活動開始からわずか数年でYouTube総再生数が100万回を超え、Twitterフォロワーも1万7千人に達するなど、多くのファンを獲得しました。
その結果、茨城県の情報発信力は飛躍的に強化され、7年連続最下位だった都道府県魅力度ランキングが2020年には42位に浮上するという快挙も「ひよりん」の貢献によるものかもしれないと言われています。
この事例は、高崎市がVTuberを導入した際にも得られるメリットを示唆しています。
では、高崎市がVTuberを導入することで具体的にどのようなメリットがあるのか、いくつか見てみましょう。
- 観光PRと魅力発信の強化
VTuberが市の“顔”として観光地や特産品を紹介すれば、動画を通じて高崎市の魅力を臨場感たっぷりに伝えることができます。
たとえば少林山達磨寺や榛名山・榛名湖、高崎白衣大観音といった観光スポットをVTuberが巡る動画シリーズを配信すれば、写真や文章だけの紹介よりも興味を引きやすく、訪れてみたいと思う人が増えるでしょう。
実際にVTuberはキャラクターとしての親しみやすさもあり、堅苦しい広報より視聴者の心に残りやすいため、市の情報発信力を高める強力な手段になります。 - 市民とのコミュニケーション向上
VTuber最大の利点は、双方向のコミュニケーションが可能なことです。
生配信で市民からのコメントにリアルタイムで答えたり、SNS上で意見を募ったりと、従来の一方通行の広報では難しかった市民参加型の情報発信が実現できます。
例えば高崎市のVTuberが定期的にライブ配信で市政ニュースやイベント情報を伝え、市民から質問を受け付ける「市政相談コーナー」を設ければ、市民は気軽に質問や要望を伝えられ、市役所側も生の声を拾うことができます。
キャラクター越しとはいえ、人間味あるやり取りが生まれることで、市民との距離がグッと縮まり親近感が増すでしょう。 - 若者や新たな層へのリーチ
高崎市に限らず多くの自治体で課題となっているのが、若年層の市外流出や地域への関心の低下です。
VTuberはまさに10代~30代の若者に人気のコンテンツであり、彼らにアプローチする絶好の手段です。
動画で地元出身の若者にインタビューしたり、流行のネタを交えたりすれば、「自分たちの世代に寄り添ってくれている」と感じてもらえるでしょう。
実際、新居浜市の議会でも「若者がマーケットであるVTuber活用をやらない理由はない」という声が出たほどです。
VTuber導入によって若い世代に高崎市の魅力や行政情報を届けられれば、Uターン就職や地元イベントへの参加者増加など将来的な地域活性化にもつながるかもしれません。 - 市のイメージアップ
可愛らしい、または格好いいVTuberキャラクターが「高崎市公式」として活動することで、市のブランディングにもプラスになります。
デジタルに前向きで新しいことに挑戦する自治体という印象を与えられれば、高崎市への注目度も高まりますし、市民も誇らしく感じるでしょう。
従来からのゆるキャラに加えてVTuberという新戦力が加わることで、「高崎市をもっと盛り上げよう」という機運醸成にも寄与しそうです。
実際、奈良県では従来のマスコット「せんとくん」に代わる広報VTuberキャラのデザイン公募と県民投票が行われ、話題を呼びました。
高崎市でもVTuber導入が実現すれば、メディアにも取り上げられ、市の名前が今まで届かなかった層にも届くきっかけになるでしょう。
課題と対策
魅力的なVTuberですが、導入に当たってはいくつか乗り越えるべき課題もあります。
ここでは高崎市がVTuberを導入する際に直面しそうな課題と、その対策について考えてみます。
- 予算の確保とコスト対効果
オリジナルVTuberを制作・運用するにはそれなりの費用が必要です。
キャラクターデザインや3Dモデルの制作、モーションキャプチャ設備、声優・演者への依頼、動画編集など、初期投資も運用コストも発生します。
「予算に見合う効果があるのか?」と議会で問われる可能性も高いでしょう。しかし前述の茨城県の茨ひよりさんのように、上手く軌道に乗れば広告換算で数億円規模のPR効果を生む可能性があります。
また、国のデジタル田園都市国家構想の交付金や自治体DX推進予算を活用して資金援助を得ることも検討できます。
重要なのは「費用以上の価値を生む投資」であることをデータで示すことです。
その際、制作は安易に安価な業者に任せず、クオリティを重視する必要があります。
実際「安くVTuber制作を依頼した結果失敗し、作り直す羽目になった」という失敗談もあるため、信頼できるプロに依頼することが大切です
参考:VTuberブームで企業と自治体が続々便乗?流行はホンモノか - 市議会や市民の理解を得ること
VTuberというと一部では「オタク向け」「子どもじみている」という先入観を持たれるかもしれません。
特にご年配の市民や議員の中には、税金を使ってまでやることかと疑問を持つ方もいるでしょう。
そのため、導入前には丁寧な説明と周知が欠かせません。
対策としては、まず他自治体の成功事例を示すことです。
例えば「茨城県ではVTuberにより若者への情報発信に成功し、結果的に地域のイメージアップにつながった」といった具体的な成果を紹介すれば、VTuber導入の意義をイメージしてもらいやすくなります。
また、高崎市のVTuberのキャラクターデザインを市民公募にしてみたり、愛称を投票で決めたりするのも有効です。
そうすることで市民の愛着が湧き、「自分たちのVTuber」という意識が醸成されれば、批判よりも応援の声が上回るでしょう。
さらにコンテンツ内容にも配慮が必要です。
行政が運営する以上、特定の層にしか受けない内容は避け、子どもからお年寄りまで楽しめる企画にすることが求められます。
誰もが安心して見られる健全さと、幅広い世代がクスっと笑える親しみやすさを両立させることで、理解と支持を得やすくなるはずです。 - 運用の継続性とマンネリ化の防止
VTuberはデビューがゴールではなく、その後継続してコンテンツを発信し続けてこそ効果を発揮します。
最初は物珍しさで注目が集まっても、配信が途絶えてしまってはファンも離れてしまいます。
高崎市役所として日々の業務の中でVTuber運用を続けるには、担当チームや人員の確保も課題です。
そこで、長期的な運用計画を立てることが重要になります。
例えば年間の動画配信スケジュールをあらかじめ策定し、観光シーズンやイベントに合わせた企画を盛り込んでおく、定期的にライブ配信で交流の場を設ける、といった計画を立てる必要があります。
また、人事異動などで担当者が変わってもノウハウが引き継げるように、マニュアル整備や複数人体制での運営を心がけることも重要です。
外部の制作会社やクリエイターと連携し、ネタ出しや技術面のサポートを受けるのも一案です。
マンネリ化を防ぐためには、定期的に新企画を打ち出したり、他のVTuberやご当地キャラとコラボしてみたりといった工夫も有効です。
幸いバーチャル上のキャラクターであれば衣装チェンジや設定の追加も自由度が高いので、季節ごとのコスチュームを用意したり、高崎市の様々な部署(観光課、環境課など)とコラボしてテーマを変えるなど、飽きさせない演出が可能です。
継続的に運用する体制とアイデアさえあれば、VTuberは長期にわたり市に貢献してくれるでしょう。
今後の展望
VTuber導入後の展開として、高崎市ではどのような面白い取り組みが考えられるでしょうか。
ここでは未来の展望としていくつかアイデアを紹介します。
熊本県玉名市では、地元企業とVTuberがコラボし、スイーツを開発してふるさと納税の返礼品にするなどユニークな試みも始まっています。

高崎市でも同様に、VTuberを活用した地域企業とのコラボ企画が期待できます。
例えば、高崎名物のだるま最中や焼きまんじゅうをVTuberがプロデュースして新商品を作り、それをオンラインでPRするといったことも可能でしょう。
VTuberが商品パッケージに描かれたり、一緒にイベントで販売したりすれば、話題性も抜群です。
また、VTuberを活用したイベント展開も考えられます。
バーチャル空間上で高崎市の名所を巡るオンライン観光ツアーを開催すれば、遠方にいる人にも高崎の魅力を体験してもらえます。
実際、徳島県の公認VTuber蒼藍アオさんは地元企業と提携してオンラインバスツアー企画を行った例があります。

高崎市でもVTuberがガイド役となり、VRやライブ配信を通じて榛名湖畔の花火大会や市内の祭りを実況すれば、自宅にいながら参加できる新しい観光の形を提供できるでしょう。
コロナ禍で培われたオンラインイベントのノウハウとVTuberの親和性は高く、災害時や遠隔地との交流にも役立つはずです。
さらに、高崎市のVTuberが他の自治体や人気VTuberとのコラボレーションに発展する可能性もあります。
お隣の前橋市や群馬県庁がもし公式VTuberを持つようなことがあれば、合同で群馬PR動画を制作したり、群馬県内VTuberサミットを開催して一緒に配信する、といった取り組みも夢ではありません。
企業とのタイアップでは、高崎出身の著名企業(例えば食品メーカーや観光業者)とVTuberがコラボCMを作ったり、ゲーム内で高崎市を舞台にしたイベントを展開したりと、多彩な広がりが期待できます。
VTuberはインターネット上で活動するため地理的制約がなく、全国・世界へ向けて高崎市をアピールできる点も大きな強みです。
海外のファンが付けばインバウンド観光の促進にもつながるでしょう。
最後に、高崎市民にとってVTuberは単なる広報キャラクターに留まらず、「市民の皆さんと一緒に成長していく存在」になるかもしれません。
市民参加型の企画(VTuberと一緒に踊ってみた動画募集や、VTuberが市内のお店を突撃訪問する企画など)を通じて、市民が主役になれる場も作れます。
そうすることで、市民一人ひとりが高崎市のPR隊の一員となり、VTuberと共に高崎を盛り上げていくという連帯感が生まれるでしょう。
高崎市役所がVTuberを導入すれば、「情報発信」「観光振興」「地域活性化」の新たな切り札となることは間違いありません。
もちろん課題もありますが、それらを乗り越えて軌道に乗せることができれば、高崎市に今までになかった追い風を呼び込めるでしょう。
デジタル時代にふさわしい親しみやすいキャラクターが、高崎市の魅力を日本中そして世界中に発信してくれる日が来るかもしれません。
市民みんなでVTuberを育て、そしてVTuberに高崎をもっと好きになってもらえる
――そんな素敵な未来に期待が高まります。
高崎市公式VTuberの誕生の日が待ち遠しいですね。
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